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外食産業・フードビジネス 「ニュースの見方」

外食産業・フードビジネスに関する様々なニュース・できごとに対する、考察・私見。
・・・これらはあくまで、「ひとつの見解」に過ぎません。
 

「クォーターパウンダー」行列演出報道・・・日本人特有の心理を上手く突いた販促手法。「踊らされる消費者」から、脱却せよ!。(2008年12月)




■面白い話がある。(以前、ある書籍の広告を、新聞上で見たもので、大変面白かったので、記憶していたもの。書名は失念した。)

ある男が船の上に居る。この男(女でもいいのだけど)を、どうにかして、海に飛び込ませたい。さて、どうすればいいか。
その男がアメリカ人であれば、「飛び込めば、あなたはヒーローと呼ばれますよ」と言えばいい。
イギリス人なら、「飛び込めば、あなたは紳士と呼ばれますよ」で、イタリア人なら、「女性にもてますよ」。
フランス人は、「きっと、あなたは飛び込まないでしょう」だったと思う。

そして、我々日本人は・・・もうお分かりのように、「みんな飛び込んでますよ」である。


■2008年11月、渋谷や表参道に突如、姿を現した謎のハンバーガーショップ、そこにとぐろを巻く長蛇の列は、実にセンセーショナルであったし、それが実はマクドナルドが仕掛けた新商品キャンペーンであったことを、多くのマスコミは大々的に報道した。

この事実をもって、(「演出」したことの良し悪しはひとまず置いておくと)、新製品導入時の、新しい販売促進手法としては、間違いなく奏功したといえるわけだ。
筆者のところにも、某テレビ局(ニュース番組)から、この「クォーターパウンダー」騒動にどういう意味があるのか、コメント提供依頼が来たことからも、世間の関心の高さが覗える(ちなみにこの依頼に対しては、「原田CEO就任以来続々と繰り出されるマーケティング手法の一環としかみておらず、特段面白いコメントもできそうにない」として丁重にお断りし、翌日放映の「ファミレス特集」に出演させていただいた)。


■そして昨日(2008年12月25日)、表題のように、「先月話題となった、クォーターパウンダーの大行列が、人材派遣会社を使った演出であったことが判明」と、多数の報道機関により報道された。初回報道時の反動もあってか、今回、各報道機関の論調は、一様に、マクドナルドのこうしたやり方を断固批判するというものである。また実際、日本マクドナルドHDの株価は、この報道を受け、前日比60円安と急落した。


■「演出」の真偽についてや、その良しあしについては、これら報道や、さまざまなブログ等で語りつくされた(る)と思うので、ここでは書かない。このニュースから、もう一つのポイントを見出したい。それは、「我々消費者も、反省すべきだ」ということである。

冒頭に紹介した、ボートから飛び込む男の話は、我々日本人の特性、そして、日本というマーケットの特徴を、実に良く表している。
また、ビヨンセだったか誰だか、人気女性シンガーが来日し、彼女を崇拝する若い女性たちを前に会見した時、そのシンガーは目を丸くしてこう言った。「でも、どうして皆揃って、トレンチコートを着ているの?」と。本当に、素朴な疑問として、そう思ったのであろう。

今回のマックの件は、報道によれば、行列をなす人たちのうち千人が、人材派遣会社から送られた人たちだったという。
個性とかオンリーワンとか言いながら、我々日本人は、「自らが、隣と同じであると確認して安心」し、「これが流行っていると言われれば、自分もそれに必死についていき」、「行列ができていれば、自分も並ぶ」のである。千人が並んでいたら、それを見て、千人、二千人が並び、その話題を聞いた人が、並びたくなって、さらに並ぶのである。

マーケティングをやる側からいえば、実に、やりやすい人種ということになるのだろうか。


■資本構成・役員構成を見れば明白なように、マクドナルドは今や、米国本社が主導権を握る、外資系企業である。(そんな中、専門経営者として登用された日本人・原田CEOは、勿論、経営戦略の立案・実行者であるのだが、多分に、(外資系、というイメージを薄めるための)象徴としての側面も持つように思われる)

そして思い起こせば、外資系ドーナツショップの開店時にも、目を疑うような行列ができていて、筆者はそこに並ぶのを諦めた。今話題のH&Mにも、大行列ができた。そして当然、マスコミはこぞって、こうしたことを報道した。ドーナツとH&Mが演出をしたかどうかはわからないし、絶対にしていないと思うが、そんなことは別にしても、こうした報道により、絶大の販促効果が上がったであろうことは、明白な事実である。大行列の報道によって、全国民に無料で自社ブランド名を認知させ、さらに、テレビを見た人が翌日、行列に加わり、更なる行列が出来る。


■つまり今回の件は、「情報に踊らされ易い」日本の消費者の特性を上手に利用した、外資系企業の実に巧妙なマーケティング手法であったといえる。企業側に、倫理性が問われかねないことは勿論だが、われわれ日本の消費者にも、反省すべき点があるといえるのだ。「踊らされる消費者」から、脱却するために。


2008年12月26日記す。
written by フードビジネス総合研究所

 
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